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毎日かくれんぼ

著者 佐々木輝

2000年9月27日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

来る日も来る日もかくれんぼ

 肢体不自由養護学校には、生 活の中の些細な動作がで きない子どもがいます。 普段、私たちが何の気な しにしている着替え。とこ ろが、その中にある二つの 動作「ボタンをつまむこと」 「それを穴に入れること」 が障害を持つ子どもたちに とっては、とても高いハー ドルなのです。
 そのため、養護学校には、 着替え、排泄、歩くことな ど、生活の中で必要な動作 そのものを習得するための 時間が設けられています。 6年のMさんは、笑い声 や「あっあっ」「あちぃ」 といって気持ちを伝えます。 指先も器用ではありません。 ボタンはめのような細かい 動作は特に難しく、面倒臭 いという抵抗もあり、一人 でできないことが多くあり ます。そんな彼女の目下の 課題は自分で着替えること でした。朝の会と帰りの会 に毎日毎日行ったのです。 ある朝、「おはよう、M さん」と挨拶をした途端に、 着ている服に目が行きまし た。難関のハイネックだっ たのです。
 あの小さい穴から、頭が なかなか抜けず、Mさんは いらいらしてきます。しか も、飾りのついたゴムが髪 に。脱げない、髪が引っ張 られて痛いとなれば、当然 「うーっ」とうなって暴れ、 服が飛び、リュックさえも 飛ぶといった有様です。周 りにいる子の顔に当たらな いかとひやひやします。さ らに、私の髪の毛を力一杯 引っ張ってきて放さないこ ともあります。こうやって、 朝から大奮闘になってしま うこともあるのです。
 しかし、大人だって一日に 何回も着替えるのは、あま り嬉しいことではありませ ん。どうしたら楽しく練習 できるか、私は一計を案じ たのでした。それは「かく れんぼ」という方法。ハイ ネックを着るときに、間違 って袖から一所懸命頭を出 そうとしてもがいていると します。Mさんのいらいら が頂点に達する前にすかさ ず「おーい、Mさんどこに いるの、ここかな?」とハ イネックの首の穴からのぞ きます。すると、勢いよく 頭を出して、おかしそうに、 にーっと笑うのです。「な あんだ、ここにいたのかあ」 続いて、右腕のかくれんぼ、 更に、左腕のかくれんぼと 繰り返します。着替えは、 かくれんぼのできる時間と 思っているかもしれません。 時に、洋服をすっぽり被っ て首の穴から頭を出す一歩 手前で「んーっ」と声を出 して私を逆に呼ぶときもあ ります。「ねえ、私はここ に隠れているよ。早く探し てよ」そんな感じがします。
 来る日も来る日も、こう いったかくれんぼをし、い よいよ卒業が近づいてきま した。テンポよく着替えら れることが多くなってきた 頃に、お母さんからうれし い報告を受けました。家で お風呂に入るときに、自分 からどんどん洋服を脱いだ、 というのです。 また別の日、「卒業式に これを着せたい。着慣れる ように練習させてほしい」 とお宅からベルベットのド レスを渡されました。普段 は動きやすい、着替えやす い服を着ています。それが、 卒業式という普段と違う雰囲 気の中で、着慣れないド レスを着て、証書をもらう ことができるのだろうか、 と一抹の不安を覚えました。 とにかく、練習です。慣 れるしかありません。まず、 ドレスを前に、「きれいな 服だね」と二人でうっとり 眺め、そして、すかざず 「着てみよう!」と誘って みました。明らかに拒否姿 勢。「かわいい」と連発し ながら着せていくと、Mさ んの目にはほろほろと涙が。 それでもやっとの思いで ドレスを着せ、職員室や他 の教室を回って、いろんな 先生に誉めてもらいました。 こわばった顔がだんだん緩 み、あの、にーっという表 情が見えてきました。
 当日、ドレスに身を包んだ Mさんは校長先生のところ まで自分ひとりで歩いてい きました。そして、しっか り証書を受け取ったのです。
(佐々木輝 小学校教諭) 

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